冷めたコーヒー

Weniger, aber besser

『妄想する頭 思考する手 想像を超えるアイデアのつくり方』を読んだ感想

思いかけずツイートが伸びてしまいました.

折角なので,読んだ感想を認めておきたいと思います.こういうのはシュッと読んでシュッと記録しておくに限ります.

感想

本書を読んで,以下の 3 点が印象に残りました:

  1. 「天使度」と「悪魔度」
  2. 妄想の言語化: クレーム
  3. 見る前に跳ぶことの効用

「天使度」と「悪魔度」

本書を通して「天使度」と「悪魔度」という指標が多様される.これは研究テーマの良し悪しを評価するための尺度で暦本研で使われているらしい.「天使度」は発想の大胆さを表す尺度であり,「悪魔度」は技術レベルの高さを表す尺度として使われている.すなわち,人をポカンとさせるようなアイディアであれば天使度は高いし,実現するのに必要な技術レベルが高ければ悪魔度が高いことになる.この 2 軸のバランスがちょうどよい研究テーマは誰にでもその価値が明らかであり,かつ,破壊力のあるイノベーションとなり得る.

とかく技術競争の激しい現代では,悪魔度を高めることに走りがちであるように感じる.自分の研究の方向性としてもそういう風になっている傾向がある.確かに技術度は高くてパッと見すごいんだけど,「結局,何が嬉しいの?」と言われる典型で,研究それ自体の面白さが伝わらない.もちろん,分野にも依拠するので,それが悪いとは言い切れないが,天使度を高められるような柔軟な発想もできるように視野広く活動していきたい.

妄想の言語化: クレーム

クレームとは「私はこの研究ではここを主張します」という言明のこと.例えば,「DNA は二重螺旋構造をしている」などが例として挙げられている.クレームは必ずしも正しくある必要はなく(その時点で正しいかどうかなんて分からないので),検証可能な仮説となっていればよい1.その際に,ダラダラと長い文章で表現するのではなく,できるだけ短く一行で言い切ったものであるべきと著者は説いている.思考に耽っていると,様々なアイディアが頭の中でモヤモヤと無限に広がっていくことが度々ある.それを放置せずに,モヤモヤした思考の中からクレームとして切り出せることは何なのかと考え,アイディアを洗練させていくことを習慣にしていきたい.

見る前に跳ぶことの効用

「良いアイディアを思い付いたらさっさと手を動かせ」ということ.熟考してばかりでは事態は何も前進しないが,手を動かせばたとえ失敗したとしても熟考の何倍もの発見が期待できる.本書では「GAN2」を考案したグッドフェローの話を例として取り上げている.GAN は彼が仲間と一緒に夕飯をとりながら話をしているときに閃いたらしい.そして,食事を終えるとすぐにアイディアを検証し,その翌日に論文を書いて発表している3

「このアイディアは面白そうだけど,本当にうまくいくだろうか」などと考えて,重い腰が上がらずに検証に時間がかかってしまうことがあったりするが,必要なのは熟考ではなくシュッと手を動かして実験してみることというのがよく分かる話だと思った.

Refference


  1. コンサル界隈では「イシュー」と言われるそれである.

  2. Generative Adversarial Networks = 敵対的生成ネットワーク.

  3. この時点では論文として不十分ではあったらしいが,研究者コミュニティの中で一気にバズってみんなが実験を始めたらしい.